学生の研究紹介

学生の研究紹介

スパコンを使用しての
AIによる津波被害予測
に挑戦中です

博士後期課程に進んだ学生達は指導教員から与えられた研究テーマではなく、自分で課題を見出して研究テーマを設定し、自由なスタイルで研究を進めていくことが多くなります。
本コーナーでは本学博士後期課程に在籍する学生に焦点を当て、実際に何を考えてどのような研究に取り組んでいるのか、オフの生活はどうしているのか、博士課程学生の研究生活の実態について指導教官のコメントも交えてご紹介していきます。
トップバッターで登場するのは、社会産業理工学研究部社会基盤デザイン系 馬場研究室でAIによる津波予測の研究に取り組む博士後期課程1年の上谷政人さん。

地震や津波の被害予測に取り組む馬場研でAIによる津波被害予測の研究を牽引

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私は馬場俊孝教授が主宰する地震工学研究室に所属しています。ここでは地震や津波という現象そのものの物理的研究を核に、これらの災害の被害予測や地震以外の原因による津波、さらには津波の被害経路シミュレーションに関する研究まで行っています。馬場研の最終目標は津波で被害を受ける人を減らすこと、津波で亡くなる命を極力減らすことだと理解しています。
そんな中で私はシミュレーションや数値解析を主に担当し、機械学習やAI を活用した津波の予測に取り組んでいます。AIによる津波予測は新しい研究なので、世界の研究者たちが試行錯誤している段階です。博士後期課程での研究はやりたいことや挑戦したいことを自分で選べて、時間の自由度が高いのが気に入っています。私は博士前期課程までの研究テーマに新たな知見を取り入れて再構成したテーマと、それまでのテーマとは違う別のテーマを2件並行して進めています。

研究テーマ①いつか来る南海トラフ地震による津波の予測

1つ目の研究テーマは機械学習やAIを用いた、南海トラフ地震による津波の予測です。南海トラフ地震によって想定される津波のシナリオ数千件を、津波の計算コードを用いてスパコンでシュミレーションし、その結果をもとに徳島県南部地域での浸水データを作成します。それらを教師データとしてAIに学習させ、内閣府が出しているシナリオをテストデータにして、予測精度を評価しています。研究には学外のスパコンを使うのですが、自分の手元のパソコンから接続できるので、ネット環境さえあればどこでも研究を行うことができます。この研究成果で、2022年の8月にはEPS誌(Earth, Planets and Space)に論文※を発表することができました。自分の研究成果が、ちゃんと論文という形で世に出るのは研究の醍醐味ですね。私にはやりたいテーマが複数あるので、今回と違うテーマでも論文を出したいと思っています。

論文にまとめた研究成果をいかにして可視化して、一般の方々にわかりやすく伝えていくかというのも課題です。最終的には我々がつくっている予測モデルによる津波被害予測をうまく可視化して津波警報システムに実装することで、少しでも津波被害を防ぎ、助けられる命を助けたいという思いがあります。
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※論文タイトル:Numerical experiments on tsunami flow depth prediction for clusterd areas using regression and machine learning models

研究テーマ②津波痕跡高を再現可能な
津波波源の推定

江戸時代や昭和に起きた南海地震など、過去に発生した地震による津波を数値シミュレーションで再現できるような津波波源を求める研究がこれまでに行われてきましたが、津波痕跡高の活用は発展の途中です。現在は逆解析を用いて、津波痕跡高を数値シミュレーションにより再現できる津波波源を求めるプログラムの開発に取り組んでいます。
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オフは将棋にハマっています

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研究以外では将棋にハマっていますね。棋譜並べや将棋ソフトを使って人間やコンピュータの将棋を解析しています。将棋ソフト開発者のブログやTwitterには参考になる情報が多く、将棋だけでなく研究のヒントにもなります。現在の将棋界はAIを使った研究の全盛期ですが、私は人間が自分の頭で考えて創り出した将棋も大切にしたいです。尊敬している藤井猛九段と中田功八段の将棋は唯一無二で芸術的なので、対局中継は欠かさず観戦しています。
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馬場先生との師弟対決!?

今後の進路は考え中

博士後期課程修了後は研究職に進むつもりですが、アカデミアに残るか民間企業に就職するかはまだ決めていません。アカデミアの場合、ポスドクという不安定な立場になるので、今後指導教員と相談して考えていきたいです。まだ1年なので、これから就職マッチングサイトのことなんかも調べていきたいです。
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社会産業理工学研究部
社会基盤デザイン系
馬場研究室
博士後期課程1年
上谷政人 さん

指導教員のコトバ

積極的に人的ネットワークを広げて欲しい!!
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上谷君は研究に没頭できるタイプ。情報系の知識を自分で身につけて、私のできない解析とかをやり始めており、一人の研究者として自立し始めていると思います。AIや機械学習は世界的に流行っていますが、津波の分野への応用はそんなに進んでおらず、日本の研究者がリードしています。まだ、論文も10本も出ていないぐらいで、そのうちの1本は上谷くんがD1の8月に書いたもの。あくまで私の個人的な見方ですが、ここでひと頑張りすれば、世界のTOPに出れるんじゃないかとか期待しています!
ただ彼の場合、博士前期課程の間はずっとコロナ禍だったこともあり、他大学の研究者や博士課程学生との出会いの機会があまりありませんでした。残念ですが、他の世代に比べて不利な状況にあります。研究者としてさらに成長していくためには、今後は積極的に研究集会や学会に参加して、人的ネットワークを広げて欲しいですね。