学生の研究紹介

学生の研究紹介

理想のドラッグデリバリーシステムの開発

を目指し自由な研究環境で日々実験中!

博士課程に進んだ学生達は指導教員から与えられた研究テーマではなく、自分で課題を見出して研究テーマを設定し、自由なスタイルで研究を進めていくことが多くなります。
本コーナーでは本学博士課程に在籍する学生に焦点を当て、実際に何を考えてどのような研究に取り組んでいるのか、オフの生活はどうしているのか、博士課程学生の研究生活の実態について指導教官のコメントも交えてご紹介していきます。
今回登場するのは、医歯薬学研究部・薬物動態制御学分野(石田竜弘教授)でドラッグデリバリーシステム(以下、DDS )に関する研究に取り組む博士課程3年の松尾アモリムクリスティーナ菜々さん。

必要な時に、必要な場所に、必要な量だけ薬物を送達するための、DDSフローチャートを完成させたい!

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私が在籍する石田竜弘教授の研究室では、薬物運搬体によるDDS(drug delivery system)の開発を目指す研究が進められています。体内での薬物の動態をうまく制御して、必要な時に、必要な場所に、必要な量だけ薬物を届けることができれば、副作用を軽減でき高い薬理効果が期待できます。
ちなみに、石田先生は学生達の自主性を重視してくださるので、自由に伸び伸びと好きな研究を続けてくることができました。

私は博士課程では、多様ながんに対して高い治療効果を示す一方で副作用が問題となっている抗がん剤の白金製剤を対象に、タンパク質との相互作用を研究しています。白金製剤は血液中でタンパク質と結合することが知られており、タンパク質と結合しているときと結合していないときでは、体内での挙動や反応性が異なるため、薬理効果や副作用の現れ方も異なるはずです。私は白金製剤とタンパク質との相互作用と体内動態の関係を正確に理解することで、高い抗がん効果を維持したまま、副作用の低減が期待できる投与方法や製剤化技術の基盤をつくりたいと思っています。これらの知見は多様な医薬品に応用できるはずなので、最終的には、病院の薬剤師や医師が、「この薬物を目的部位に届けるにはどういう投与方法がいいのか?」と悩んだときに簡単に使えるフローチャートのような基準を作りたいと思っています。もちろん、いきなりそれは難しいので、まずはがんと白金製剤に絞った研究を進めています。

私の研究は動物実験が中心です。抗がん剤を一定量マウスに投与し、経過時間ごとに採血してどれぐらいその抗がん剤が含まれるか分析したり、主要な臓器から薬物を抽出して滞留し易さの評価をします。
製剤づくりから、動物への投与、薬剤の残存量の測定まで、すべてを自分でこなす必要があるので、学術的な好奇心に加えて、実験の技量がとても重要な研究分野です。残念ながら、実験の技量は数をこなさないと身につきませんが、私は実験好きなので、実験が大変だと思うことは基本的にはありませんね(笑)。
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深く考えて段階を踏む面白さに気付いた博士課程
もっと幅広い知識と技術と考え方を手に入れたい

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学部生の頃は研究がともかく楽しくて、好きなことを好きなだけやるみたいな感じで、実験でデータが出たら、すぐに先生に見せていました。しかし、6年生で卒業論文をまとめる過程で、自分の研究の流れが蛇行していたことを実感し、論理的な思考の必要性に気付きました。なので、博士課程に進んでからはデータが出たからといってすぐ見せに行くのではなくて、一旦立ち止まって考える。得られた実験結果を捨てずに、いろいろな仮説を立て、次に何をすべきかを考えてから先生とディスカッションするようにしています。そして先生の意見を聞いて、自分の考え方で充分だったのか答え合わせをするのですが、いまだに不充分なことがほとんどですね・・・(苦笑)。
自分が好きな実験や研究をやることはもちろん楽しいのですが、博士課程に入ってからは、深く考えて、少しずつ段階を踏んでいく過程が楽しいと思うようになってきました。そういう部分が研究の醍醐味ですね。

博士課程に在学中は、特定のテーマで研究がやりたいというよりも、幅広い知識と技術と考え方を手に入れることが大きな目標です。この研究室の学生は、やりたいことは何でもやらせてもらえるので、博士課程の間は手に入れられるものを最大限手に入れて、研究者としての基礎力を高めたいと思っています。私は大学教員になるつもりですので、石田先生のように現実に即して考えて、研究室を運営していけるような力を少しでも多く身につけたい。それが私の博士課程での抱負です。
博士課程修了後は、研究室に残って研究を続けていきたいと思っています。
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猫まみれで癒される休日

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平日は一日中研究中心の生活ですが、土日の夜にも自宅や大学でデータをまとめたりしていることが多いですね。実は私には博士課程を修了して大学の教員になられた憧れの先輩がいて、彼女のようなストイックな研究スタイルを目指しています。ただ、最近、珍しいウィルスに感染して体調を崩して入院生活を送ったこともあり、無理しすぎはちょっと良くないなと思っているところです。
そんな私の癒しは「猫」。猫を4匹飼っているので、自宅にいると必ず視界に入ってくる感じです。4匹みんな大学からの帰り道に拾った子たちです。土日の昼間はできるだけ家にいるようにして、猫まみれになって癒されています(笑)。気をつけてはいるのですが、よく服に猫の毛をつけています。

学部生活ではやりたいことは全部しておこう!
自分を高めたい人には博士課程はお薦めです

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令和5年度ひかり・うずしお共創ワークショップにて
私は学部生のときに1年間休学して、「トビタテ!留学JAPAN」プログラムでポルトガルに留学させていただきました。それがすごくいい経験だったので、今の学部生の方たちも、やりたいことは全部チャレンジしておいた方がいいと思います。留学を志したのは、もともとヨーロッパは薬剤師の教育が進んでいると聞いていて、実際にどんな違いがあるのか、日本との違いを知りたい気持ちが強かったからです。ポルトガルでは、最初の半年は大学の授業をいろいろ受講して、残りの半年は薬局や病院の薬剤師のもとで実習生として経験を積みました。この1年で、自分の未熟さも含め、いろいろなことに気付かされました。学部生が1年間休学しての留学となると、研究室だけじゃなくて、学部長の決裁まで必要になるので、留学させていただいて本当にありがたかったです。

早くお金を稼ぎたいと思っている人は就職することが大事かとは思いますが、自分を高め、考え方を確固たるものにし、自分の発言に責任を持てるようになる、そんな風に成長したい方には博士課程は凄くお薦めです。アカデミアに残ろうが企業に就職しようが、博士課程で身につける「テーマ設定→仮説→検証」というスキルは、どんな仕事でも役立つはずです。博士課程での経験は、自分を守る力、自分を成長させる力につながると信じています。
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薬学研究科 薬学専攻
薬物動態制御学分野(石田竜弘教授)
博⼠課程3年
松尾アモリムクリスティーナ菜々 さん

指導教員のコトバ

自分のペースを見極めて
研究企画力を磨いて欲しい
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彼女は研究室に配属されたときから研究への意欲は高かったですね。でも、自分の興味だけで次々に実験をやって、社会的な意義とか関係なしに変なトコに入り込んでいく。どこへ走っていくかわからない・・暴走気味でした(笑)。
でも、自分で研究データをまとめたり、学会発表をしたりする過程で、いろいろ感じたはずです。少しずつ変わってきて、最近は「いや、ちょっと待てよっ」という姿勢が入ってきています。遠くを見ることができるようになってきた感じです。松尾さんは大学教員になると宣言しているので、自分でテーマを設定し研究資金を獲得するための研究企画力を身につける必要があります。私はそういう意識で、彼女とは話をするようにしています。
松尾さんのダメなところは自分のキャパシティ以上のことをしようとすること。ストイックなのはいいですが、そんな研究スタイルでは体やメンタルを壊すことになる。よく考えて、自分のペースを見極めながら研究を進めて欲しいです。トータルで勝負する感覚が大切です。彼女は後ろを振り返っている暇はないですけど、彼女の背中を見て博士課程に進む学生がたくさん出てくるのではないかと思っています。
博士課程への進学を迷っている学部生について、私は意欲さえあれば進学すればいいと思っています。博士課程の研究は偏差値とかは関係なくて、興味のあることは何でもやってみたいという気持ちこそが大事です。そこだけです。知的好奇心と挑戦に躊躇しない意欲があれば、博士課程に進むことで得るものは大きいと思います。