卒業生の声

卒業生の声 アカデミア研究者

血中リン濃度の制御により

健康長寿の実現に貢献したい

徳島大学大学院博士課程の修了後には、多様なキャリアパスが存在します。アカデミア研究者•教員、企業研究者、ベンチャー経営者、大学の技術職員など、その活躍の場は非常に広範囲です。本コーナーでは本学博士課程を修了した先輩たちのリアルな姿を紹介していきます。
今回紹介するのは、大学院医歯薬学研究部 医学域 応用栄養学分野(医科栄養学系)助教の塩﨑 雄治先生。自身の研究への思いや、アカデミアの研究者として博士課程進学について語っていただきました。
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塩﨑先生のキャリア

博士課程で実験のセンスが身についたと感じた瞬間

私が博士前期課程在学中はM2の春まで就職活動をしており、博士後期課程も進路の一つとして検討していました。そのうち、自分は実験の組み立てや、研究についていろいろと考えることに適性がありそうだと感じるようになってきたことに加えて、当時指導していただいていた宮本賢一教授(現・龍谷大学 農学部教授)から、「研究に向いているから、やっていけるんじゃないか」と背中を押してもらったこともあり、博士後期課程へ進学することに決めました。
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博士後期課程での研究では、世に出せなかった結果も多くありましたが、習得した考え方や技術は、その後の研究にすごく役立っています。例えば、実験で期待した結果が得られなかったときは、原因を自分で考えて再度実験して評価する、そんなことを繰り返しているうちに、実験のセンスみたいなものが身についてきたと感じる瞬間があります。そのおかけで、この実験はこうすればうまくいきそうだという判断が、ある程度できるようになりました。また、徳島大学の研究設備は非常に充実しており、総合研究支援センター先端医療研究部門の蛍光顕微鏡などの使用や放射線総合センターでのRI実験を通して、将来の研究にも役に立つ実験スキルが身についた実感はあります。

血中リン濃度の制御に関わるリン酸トランスポーターの研究

現在私の主な研究対象は、腎臓での尿から血液へのリンの再吸収に関係するリン酸トランスポーターです。リンはカルシウムと共に骨の成分であるハイドロキシアパタイトをつくる人体に必須の栄養素で、健康な生活を送るにはリンの血中濃度を適正値に保つことが非常に重要です。高リン血症は慢性腎臓病や心血管疾患、低リン血症はクル病(骨成長障害)などの原因となることが知られています。このように、人の健康と密接に関係するリンの血中濃度に影響を与えているのがリン酸トランスポーターです。
腎機能が正常な場合、血中のリンは腎臓の糸球体から尿中に排出されて、近位尿細管という部位で約8-9割が血中に再吸収されます。再吸収を担うリン酸トランスポーターとしてはNaPi2a(ナピツーエー)やNaPi2c(ナピツーシー)などが知られており、私たちの体はホルモンの働きでリン酸トランスポーターの活性を制御することなどで、血中リン濃度を適正値に保っています。現状、リン代謝調節機構は完全には解明されていないため、私はNaPi2aやNaPi2cの活性への関与が疑われる遺伝子をCRISPR/Cas9※で組み換えた遺伝子欠損モデルを使って、活性制御の仕組みを研究しています。
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腎臓 糸球体・近位尿細管におけるリンの濾過・再吸収
また、細胞レベルでリンの影響も研究しており、細胞内でのリンの移動や代謝が、生体全体のリン濃度調節や個々の臓器の細胞毒性に関与するメカニズムを、放射性同位体や顕微鏡等を利用して解析しています。
このような研究から人体のリン調節機構を理解することによって、食品や薬での血中リン濃度制御を可能にし、人々の健康長寿の実現に貢献することが私の目標です。そのためには、人とマウスのリン酸トランスポーターの機能の違いも解明して、マウスで得られた知見を人に対して、もっと使いやすいものにしていきたいです。

自分だけの瞬間に出会える喜び

私は蛍光顕微鏡で膜構造を観察することが多いのですが、細胞の微小構造がさまざまな色で光っているのは本当に綺麗ですね。論文でも見たことがない、通常と全く異なる面白い構造に出会えることもあります。世界中で自分しか見ていないであろう瞬間に遭遇する可能性があることが、研究の魅力かもしれません。徳島大学には蛍光顕微鏡をはじめとする最先端の研究設備が揃っていますので、未知なるものが見たい人には嬉しい環境です。
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近位尿細管培養細胞(顕微鏡写真)

博士課程進学前にビジュアル制作スキルを習得しておこう!

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論文投稿の際に、グラフィカル・アブストラクト(論文の研究内容をイラスト1枚で示す概略図)を求められることがあるので、自分の研究を分かりやすく図でまとめるスキルを身につけておくと、博士課程進学後に役に立つと思います。PowerPointの作図機能でも結構いろいろ描けますし、PhotoshopとかIllustratorなら機能が多彩で便利です。また、博士課程では発表や資料作成などの機会も増えるので、プレゼン用スライド作成におけるデザインの基本を学んでおくこともお奨めします。
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グラフィカルアブストラクト例
最近は実験技術や装置の発展が著しくて、さまざまな部分で研究のスピード感が高まると同時に、ジャーナルに論文を出すために要求されるデータ量も増加傾向にあるように感じます。そんな背景もあり、博士課程学生には、社会的もしくは医学的に意義のある研究アイデアを発想する力と同じくらい、効率よく研究を進行させる能力が求められますので、最新の技術を柔軟に取り入れるように努力して欲しいと思います。
例えば、私が博士課程学生時代に登場してきたCRISPR/Cas9は、比較的簡易で安価な遺伝子組み換え技術で、この普及のおかげで遺伝子欠損モデルがすごく作りやすくなりました。ただし、この技術には特有の注意点もあって、論文や座学で学ぶだけではダメで、自分で実際に使いながら覚えていく必要がありました。

迷っているなら博士課程進学に舵をきろう

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あまり無責任なことは言えないのですが・・・博士課程に進学するか迷っている方がいるのなら、悩んでいる時点で「研究がしたい」思いが強いはずですので、積極的に考えていいのではないでしょうか。今は「うずしおプロジェクト」のような経済的支援制度も充実していて、私たちの頃と比べて遥かに博士課程に進学しやすい状況が整っているはずですので。もちろん、指導教員の先生のコメントも参考にされたらいいと思います。
余談ですが、私が博士後期課程学生のときは学生支援機構の無利子奨学金に加え大塚芳満記念財団奨学金助成を利用させていただきました。大塚芳満記念財団奨学金助成は返還の必要がなく、海外の学会への渡航費などに充てることができたので、本当に感謝しています。
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徳島大学大学院
医歯薬学研究部
応用栄養学分野
助教
塩﨑 雄治